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意識を取り戻した司。そこで彼女を迎えたのは…

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年が明けて1ヶ月以上経ちましたが初の更新になります。
今年は……うん(遠い目
 目を覚ました私の目に入ってきたのは見知った女の子の端正な顔立ちが作り出すあどけない笑顔と背後に広がる青と赤が入り混じった空の色だった。
 背中からふくらはぎにかけて伝わってくる堅い感触と後頭部からのデニム製の衣服、それに覆われた太ももの柔らかさが感じられる。そこから察するに、私はどこかに横になって膝枕をしてもらっているようだ。

「しののめ……さん……?」

「うん、おはよー♪」

 眼前を占領しているクラスメイト、東雲陽(しののめあきら)の名前を口にすると彼女は嬉しそうに挨拶の言葉を口にした。

「どうしてここに…?」

「どうしてって、それはこっちのセリフだよー。お買い物の途中に公園の横通ったらさ、キミがベンチの上でお昼寝してるんだもん。……あれ、今夕方だからお昼寝じゃないのかな?」

「公園の……ベンチ……?」

 彼女の話に違和感を覚えた私は、その言葉を確かめるため頭を起こし、周囲を仰ぎ見た。
 目端には茶色の長い木板とそれを固定している金属のフレームが映り、木製のベンチに寝ているのがわかる。頭上には緑色の木々が所狭しと生い茂っていて、遠くには幼児を連れた親子が歩道を歩いているのが見える。彼女の言うようにここは紛れもなく公園の一角であるらしい。
 虚ろな意識の中、自分が今まで何をしていたのか、記憶の糸を手繰り始める。放課後、古本屋のお姉さんに案内されて店の奥にある豪華な部屋で……そこで……。

「っっ!!」

 そこまで思い出して、私の顔は身体中の血液全てが集まったかのように熱くなった。お姉さんの突然の愛撫により、下半身を汚してしまった記憶がよみがえったからだ。
 慌てて、腰回りに手を伸ばし、びしょびしょになっているはずの身体に触れた。手のひらから感じられるのはたっぷり水気を含んで冷たくなった衣服に違いない。だが、私の予想に反して、体温の移った温かさと乾いた布地のすべすべとした触り心地が伝わってくるばかりだ。

(私……確かにあのとき……)

 噴き出した温かい体液が秘部を濡らし、下着に染み込んで足を伝って流れ落ちていく感触をはっきりと記憶している。
 あれは夢と現の区別ができないくらいにリアルな出来事だったのだろうか?本当は本屋さんなんて存在していなくて、あのお姉さんも昨夜の自室での出来事も私の性に対する好奇心と欲求が作り出した夢だったんじゃないか?
 そんな不安が表情に出ていたのか、私を介抱してくれていた恩人は不思議そうに声をかけてきた。

「どうしたの?顔が真っ赤だし、なんか様子がふつーじゃないよ?」

「えっ……あ、あの………東雲さんが私を見つけたときって……変なところ……ありませんでした……?」

「変なとこ?」

「そ、その……洋服が濡れてたとか……においが……気になったとか……」

「んー、そゆのはなかったけど、エプロンがあったよ。ほら、それ」

 指し示された部分を見てみると、おなかのところに灰色のエプロンがタオルケットのように掛けられている。これは私のものではない。そして、持ち主には心当たりがあった。

「……っ!!」

「え、ちょっ!司ちゃん、どこ行くの!?」

 気がつくと、驚きの声をあげる彼女を背に、私はエプロンを掴んで走り出していた。
 周りを流れていく景色や木々の隙間から垣間見える建物に馴染みはないにもかかわらず、私の脚は軽く、迷うことなく動いていく。公園の敷地を出て、すれ違う人々の脇を抜け、角をいくつも曲がる。

「……っ!?」

 最後の角を曲がり、目指す場所にたどり着いたとき、私は自分の目にしたものに絶句した。
 そこにあるのが私の知る古びた書店などではなく、朽ち果てた小屋だったからだ。

「は、はぁはぁ…おいてくなんでひどいよぉ……」

 息を切らし追いついてきた東雲さんから不満の声をかかるが、目の前の光景に驚くばかりで労をねぎらう気遣いも謝罪の言葉を口にする余裕もない。
 フラフラと廃屋へ吸い寄せられるように足が動いていく。店先を覆っていた日よけは骨組みがむき出しになり、元の色が識別出来ないくらい変色したナイロン布が申し訳程度に残っているだけだ。外から店の様子が窺えた大きな窓ガラスは粉々になって夕暮れの赤い光に照らされてキラキラと輝いている。数々の本を収めていた本棚も空っぽで私が心を躍らせた雰囲気はすっかり消え失せていた。

「…………」

 私はちいさく息を飲むと、屋内へ足を踏み入れた。足元ではガシャガシャとガラスの踏み砕かれる音が鳴り、埃や腐食した金属の臭いが混ざった空気が喉や鼻を刺激する。薄暗い屋内の荒れ具合は注意深く歩を進めないと転んでしまいそうなくらいだ。

「ここずいぶんボロいけど、何があるの?」

 彼女はきょろきょろと左右に首を振って見回したり、手近な破片を拾い上げて観察したりと興味津々だ。

「何があるっていうか……あったはずのものがなくなってて……あれ……?」

 目端に見覚えのある品を捉えて声をあげた。
 それはレジ台のあたりに立て掛けてある真っ白な手提げ鞄だ。謝罪に訪れた際、汚した本を収めていた私の持ち物に間違いない。
瓦礫の山を足早に進んで手に取ると中に入っていたのは汚れてシワだらけの本ではなかったのだ。

(え、どうして…?)

 私は自分の持ち物に入っている予想外の品に混乱していた。この鞄に入っているのが私の粗相で汚してしまったシミとシワだらけの本ならば、なんら違和感はない。しかし、目の前にあるのは刷りたてで折り目一つ無い、端の部分は触れると指が切れそうなくらい紙の角が立った新書だったからだ。
 そして、本の隅に貼られた見慣れぬ付箋に目がいった。

『楽しい一時をありがとう。汚れてしまった本は修復しておきました。防水加工を施したので、今度は濡らしても大丈夫よ。氷室雪那より』

 カラフルな表紙に負けないピンク色の紙片に書かれた文章の意味するところを察したとき、私の顔は真っ赤に染まった。
 あの人には分かっていたのだ。私が自宅で何をして、どうして本を汚してしまっていたのかを。

「あーっ!!それ『リリウム』だよね!?司ちゃん、どーしたのそれ!?なんで持ってるの!?」

私の持つ本の存在に、覆いかぶさるように身体を近づけて嬉々とした声をあげる東雲さん。

「あの……実は……」

 私は昨日からの出来事を簡潔に話した。勿論、自宅や店内での恥ずかしい話は伏せてだが。

「……というわけなんです……。漫画みたいな話で信じてもらえないかもしれませんけど……」

「そっかー、不思議な出来事だねー。ボク、そゆの体験したことないから羨ましいなぁー♩」

 人を疑うなんて彼女の頭の中にはないのかもしれない。そう思わせるくらい、私の独白に耳を傾けるクラスメイトの笑顔は眩しくて可愛かった。

「あ、ありがとうございます。あの東雲さん、よかったら……この本、貰ってくれませんか?」

「え、いいの?司ちゃんも読みたかったんじゃないの?」

「私は……この本とエプロンがちゃんとあるのがわかって、自分の体験が夢じゃないんだってはっきりしただけで充分です。公園で介抱してもらったお礼も兼ねて……」

「そっか、ありがとね、司ちゃん♩」

 差し出した本を慈しむように抱きしめると言葉を続けた。

「じゃ、ボクん家行かない?この本、一緒に見よーよ?」

「えっ、一緒に……ですか!?し、東雲さん……この本は……その、あの……子供が見ちゃダメっていうか、みんなで見ちゃダメっていうか……!!」

「うん、もちろん知ってるよ」

 言うが早いか、サッとクラスメイトの人差し指が私の唇を押さえ込んだ。骨の上にわずかな肉と皮膚が巻きついただけみたいな、か細く白い指なのに、私の一番敏感な感覚器はその柔らかさを確かに感じていた。

「だ・か・ら……司ちゃんと見たいなって思ってるんだけどなぁ……」

そして、吐息まで聞き取れそうなくらいの距離あった笑顔が一変。彼女は口角をつりあげると意地悪な笑みを作って見せた。
いつものハツラツとして明快な様子からは想像出来ないギャップに、私は胸の鼓動が高鳴っていくのを感じながら見つめ合った瞳と微かに動く唇で意思を示す。

「じゃ、行こっ!!」

 唇から離れたが手が私の掌を掴むと、元気な掛け声とともに同じ女の子とは思えない力強さで出口へと駆け出していた。
 黄昏時の空の下、道を照らす街灯が夜の世界へ移り変わること、子供の時間は終わりだということを言葉なく語っているが、私の不思議な体験はまだ終わりを見せていないようだ。

- 了 -
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2016.02.07 Sun l 私と古書店とナイショのお勉強 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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